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アメリカにおける不動産媒介契約

アメリカにおける不動産媒介契約

アメリカの不動産媒介契約は一般にリスティング契約(Listing)と呼ばれます。日本の宅地建物取引業法が定める媒介契約と類似点が多く見られます。

 

1.リスティング契約(Listing)

アメリカでは、不動産の売却や賃貸のために不動産の所有者(Principal・本人)と仲介業者(Broker)との間で交わされる労働契約はリスティング(Listing)と呼ばれています。なお、リスティングは売主と仲介人との間での契約のことを言い、買主と仲介人との間の契約は買主代理契約(Buyer agency agreement)と呼ばれます。

リスティング契約の締結により、不動産の売主は、仲介業者が、物件を購入または賃借する用意のある人物を見つけた場合、その仲介業者に手数料を支払う義務が生じます。通常、売主が仲介手数料を負担しますが、買主が負担することを妨げるものではありません。

 

2.リスティング契約の種類

リスティングは大きく6つの類型に分類されます。

(1)Open listings

売主は複数の仲介業者に不動産の売却等を依頼することができます。また売主自身が買手を探すことができます。日本の「一般媒介契約」に似ています。

 

(2)Exclusive agency listings

一つの仲介業者のみに不動産の売却等を依頼します。売主が自ら買手を見つけた場合、仲介業者への支払い義務はありません。ただし、最初に依頼を受けた仲介業者以外の仲介業者によって不動産の売買が成立した場合、最初に依頼を受けた仲介業者は売主に対して仲介手数料を請求することができます。日本の「専任媒介契約」に似ています。

 

(3)Exclusive right to sell listings

この契約を締結した仲介業者は、仮に不動産が他の仲介業者や売主自身が買手を見つけた場合でも仲介手数料を得ることができます。この契約形態の場合、依頼を受けた仲介業者は自身のみがこの不動産を取り扱うことができるため、より多くの労力や費用を仲介のために費やすことができます。不動産業界の多くの組織がこの契約形態を推奨しています。他の業者への依頼や、売主の自己発見取引が禁止されているという点で、日本の「専属専任媒介契約」に似ています。

 

(4)Net listings

売主は、不動産の売却希望価格を決めます。この売却希望価格を上回る価格で売買が成立した場合、その超過分がそのまま仲介業者の報酬となります。売主が自己の不動産の適正な価値を把握していない場合、相場より低い売却希望価格が設定される恐れがあります。また適正な価格で購入することを希望する買主が現れた場合でも、仲介業者は報酬額(超過分の額)が少ないとこの購入の申し出を売主に報告することなく断る恐れもあります。従ってこの契約形態は多くの州で違法とされているか推奨されていません。

 

(5)Multiple listing service(MLS)

多くの主要都市では、このMLSの会員となっている仲介業者は、それぞれの仲介物件の情報を共有します。このサービス(MLS)を通じて、仲介業者は自己のExclusive right to sell listingsに基づく仲介物件の情報を他の仲介業者と共有します。他の仲介業者の協力により売買が成立した場合、仲介手数料はMLSの規定によりそれぞれの仲介業者に分配されます。なおこのサービスの会員は会費を支払う必要があります。日本のレインズ(REINS・不動産流通標準情報システム)に似ています。

 

(6)Limited-Service Listing Agreement

売主は「売却を希望する家をMLSに登録して貰う」といった特定のサービスを仲介業者に依頼します。大抵の場合の場合、予め決められた額の手数料が報酬として前払いされますが、通常の仲介手数料に比べ割安であることが多いです。

 

3.リスティング契約の期間

リスティング契約を結ぶにあたっては契約期間を定める必要があります。契約期間の長さに関して、法律上の制限はありません。但し一般的に、戸建住宅を売却する際には2ヶ月から4ヶ月、商業用不動産およびマンション等を売却する際には6か月から1年程度の契約期間が設けられる場合が多いです。日本の「専任媒介契約」や「専属専任媒介契約」では契約期間の上限が3ヶ月と決められています。

 

4.仲介業者の保護

売り主が仲介手数料の支払いを免れるために、仲介業者が紹介した購入希望者と、リスティング契約の期間が終わるのを待ってから売買することがあります。

これを防ぐために仲介業者保護条項(Broker protection clause)がリスティング契約に規定されることがあります。仲介業者保護条項は、売主が仲介業者の紹介した購入希望者とリスティング契約期間の経過後に物件を売買した場合に、仲介業者がその仲介手数料を請求できるという内容の規定になります。

また、上記の売主の不正を防ぐために実務上、延長条項(Extender clause)が契約に定められることもあります。延長条項により、リスティングは契約期間の満了日を迎えても自動的に更新されます。しかし、この延長条項は上記3.で記載した、「リスティング契約を結ぶにあたっては契約期間を定める必要がある」という点に違反しているとみなされる場合があるので注意が必要です。

日本でも国土交通省による「標準媒介契約約款」では「(専属)専任媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に、依頼者が仲介業者の紹介 によって知った相手方と仲介業者を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、仲介業者は、依頼者に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができる。」という旨の条項が定められていますが、この趣旨は仲介業者保護条項と同じと思われます。

 

注…上記の内容は他の法律(Agency Lawなど)の制約を受けることがあります。また、州によって規定が異なる場合があります。用語の日本語表記は定訳と異なる場合があります。